あきちゃんヒプノ・フローライト
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プル君の星
連続Web小説
あきちゃんの童話
プル君の星
私は半分、眠りに落ちて行くところだった。
フッと落ちかけた意識が、音も無く近づいて来るものに向かった。


アア、今夜もプル君が来たのね。
「プル!」

声に反応して金色に光る大きな目が近づき、ゆっくりまばたきした。
フワフワした真っ白い毛に覆われた胸が目の前に現れ、
フワッと私の顔に大きな顔が頬ずりする。

「おおー!いい子、いい子~。」
大きな頭をなでなでする。

「プルあなたネコよね~。今日はこんなに大きくて、まるでクマだよ~。」
すると、プル君はシュルシュルッとネコの大きさになった。

プル君はピョンとベッドに跳び乗って、頭から布団の中に潜り込み、私の腕を枕にして心地良さそうに眠りはじめた。

ゴロゴロ、ゴロゴロ
プル君が咽を鳴らしはじめる。

ゴロゴロ、ゴロゴロ
どんどん、その音に吸い込まれていく。

いつも、こうしてプル君は肉体を去った後も私と眠ってくれる。
ありがとうね……。

ゴロゴロ、ゴロゴロ、なぜか今日はいつまでも響いている。
響き渡る世界が広がっていった。

広がった世界がスーッと一つの記憶にまとまって、そこに吸い込まれて行った。

晴れ渡った空を見上げ、ゴロゴロ、ゴロゴロ咽を鳴らしているプル君と日なたぼっこをしている。

プル君と一緒に過ごした19年間の、懐かしいひとときの空間に入り込んでいた。

テラスの椅子に私は腰掛け、テーブルの上にプル君が丸くなってゴロゴロ咽を鳴らしていた。
平和な至福のひと時だ。

ピタッと咽の音が止まり、プル君がムックリ起き上がった。
ヒョイと床に音も無く降りる。
いつものようにネコ草を目がけて真っすぐ歩いて行く。
鉢いっぱいに茂るネコ草に顔を埋め、草を引き抜くようにバリバリ食べはじめた。

「プル、美味しい?」
草を口からはみ出したまま、こちらを向いた。
プル君は妙に真面目な顔をして
「お母さん…。」と、言った。

「ウッワ~!プル!話せるんだ。
おおー、そのドラ声、いいね~。
まさにプルだわ~!」

「お母さん、ボクはずっとお母さんの声を聞いてきたよ。
これからはお母さんと話しをしようと決めたのさ。
ネコ語はお母さんには伝わらないけれど、人間の言葉はボクには分かるんだ。」
「へっ!」
「勝手にボクの声や態度でお母さんが色々解釈したけどね。可笑しかったな~。」
と、ニヤリと笑った。

「そうなんだ!ゴメン!」
「お母さんがボクに色々話しかけている時、ボクはお母さんの気持ちが良く分かったんだ。
お母さんがボクに言っている言葉はお母さんが自分に言っている言葉だったからね。」
「へ~!気付かなかった。」
「だからさボクはね、お母さんのその時その時の気持ちをずっと見てきたんだ。」
「……。」

「言葉が現実を創っているの、分かるかい?」
「そうなの?」
「ウン、だから自分の言葉をちゃんと聞いてあげてよ。
お母さんが自分に与えている言葉で、自分を幸せにしてあげなかったり、苦しませたりしていることに気付いて欲しいんだ。自分を幸せにしたいだろ?」
「自分を幸せに?…か…。それに、自分の言葉を聞くって、やったこと無いかもね。」
「意識していい言葉を自分に与えてごらん。お母さんの世界は全く変わるから。」

プル君は口に付けた草をペロッとなめて、私の足元に擦り寄って来た。この可愛い仕草、たまんないのよね~!

と、突然!
身体をくの字に曲げてヒクッと全身震わせて
グエ~ッ!
「プルは草を食べると必ずこうなるんだから~。」
グエ~、ゲホッ、ゲホッ!
グハ~!
草が全部吐き出された。
「ヒエ~!アア~、サッパリしたー。」

すると、何事も無かったように、尻尾を立てて尻尾の先っちょだけを左右に揺らして台所へ歩いて行った。
草を吐き出した途端にごはんを食べに行く…って!
「ねえプル、草って何で食べるの?」

カリカリ、ドライフードを頬張りながら、一粒口からポロンとドライフードを落とし、相変わらずのとぼけた仕草で、こちらを向いた。

「お母さん、草は美味しいとか美味しくないとかは関係ないんだ。
色々なものを口にするけど、その中には溜め込んだら良くないものがあるだろ。
ボクの場合、毛玉を吐き出すのが目的だけど、
それを出す為に草は必要なんだよ。
食べちゃっても、ちゃんと出せたらいいよ。
でも、出せなかったらどうなる?
病気になっちゃうよ!」

「アア、なるほどね!」

「食べたものは出る。
良いものも悪いものも食べれば出るよね。
お母さんが言葉に出したり目の前に出たものを見たら終わるのに、ジャッジして食べたりしてないかい?
さっきも言ったけど、自分に良いものや良い言葉を与えたら、良いものや幸せを受け取ることが出来るよ。
自分を大切に扱ってあげてよ。」

「そうか~!食べたら出る。それだけなのに、出たものをナンデ~とか、これナニ~ってジャッジするから終わらないんだ!
それに、受け取れるものって
自分に与えたものしか受け取れないってことね。」

「そうさ、良いものを自分に与えることさ。
そして、変なものを飲み込んじゃたと気付いたら草を食べて吐き出せる。出したら気持ち良く入るだろ。
お母さんも違和感を覚えたら吐き出したらいいんだよ。」

「え~!ゲホッて?」

プル君はあきれた顔をして、
「だからさ~、違和感の原因の感情を吐き出すのさ。
ちゃんと違和感の感情を出して、
これがあったから苦しかった!って見るだけだよ。
出したものをつまんだり触れたりしないことさ。」

「う~ん…、そうか~、‥」
でも、感情をどこに吐き出すんだ?
誰かに聞いてもらえばいいのかな?

と、考えているうち
お水をいっぱい飲んだプル君は前足を伸ばし、後ろ足を伸ばして伸びをすると、テラスのテーブルにヒョイと軽く跳び乗って、身体中ペロペロなめまわし、ゴロゴロ咽を鳴らしながら前足の先をなめ、丸くなって眠ってしまった。

私も、いつの間にか眠りについてベッドで目を覚ました。
カーテンから漏れて来る光の強さが今日の晴天を知らせてくれた。

いつも、一緒に眠るだけだったプル君だったのに、昨夜はプル君といっぱい話せたな~。
それにしてもプル君は色んな話しをしていた。
ボンヤリ思い浮かべてみた。
ほとんどの夢は思い出せないのに、昨夜のプル君との夢は思いのほかリアルだった。

言葉が現実を創っているとか、
自分の言葉を聞くようにとか、
食べたものが出る、出たものを触るなって言ていたな~。

プル君とのひとときを胸に、ベッドからおりた。
カーテンを開けると真っ青な空!
空にはプル君そっくりのネコの形の雲が一つ浮かんでいた。

それからしばらくの間、プル君は私が眠りにつく頃、しばしば音も無くやって来て、いつの間にか布団に潜り込んで一緒に眠りに落ちた。
それが当たり前になっていた。

そして、今日もプル君は来るだろうと思いながら、夜の帷が降りて、星々が賑やかにお喋りをしている夜空を見ながら寝室のカーテンを閉じた。

急速に眠くなるのを感じながらベッドに入ると、間もなく意識がプル君を捉えた。
すると、
「お母さん…。」
と、プル君のドラ声が部屋に響いた。

アッ!プル君のドラ声、この音!

この音・・・忘れもしない!
プル君が亡くなる時のことだった。

出先から急いで帰宅し、真っすぐプル君に駆け寄った。
息をしていない!
咄嗟に「プル!」と叫んだ。
プル君は「ハッ!」と言って頭を一瞬持ち上げ、私を見つめると
スーっと頭を沈めたまま動かなくなった。

プル君の胸に私は耳を押し当てて、命を感じようとプル君の鼓動を聞いた。

その時、不意にプル君の心臓の音は身体を抜け出して、私の意識も一緒に抜け出して、部屋いっぱいに広がっていった。

ドクッ‥ドクッ‥と、宙の彼方に共に舞い上がっていった。
私は身体の感覚がなくなり、プル君の鼓動と一緒に異空間に入っていた。

ドクッ‥ドクッ‥‥ドクッ‥‥‥

音が‥途切れた‥!

途端に音の架け橋を無くして、
一気にプル君と引き離された!
転げ落ちるように私の意識は自分の身体に戻った。

しばらく息が出来なかった。
吐く息は出来ても、喪失感で息を吸い込むことが出来なかった。

プル君のドラ声に鼓動の命を感じた。

「プル~!」

部屋いっぱいの命の音を聞きながら、愛しいプル君をしっかり抱きしめた。

愛しさでいっぱいだ!
もう離さないから!

と、プル君を抱きしめたまま、いつの間にか異空間に立っていた。

そこは、みどりの太陽とブルーの太陽が輝いて、足元は湖面のように白く透き通るように輝いていた。

輝く湖面に立っていると、
腕にもたれ掛かって大人しくしていたプル君がスルッと腕から抜け出して、湖面を嬉しそうに走り出した。

「お母さん、おいで~!」と、
走りながら、こちらを向いて叫んでいる。

私も嬉しくなって走る!

飛んでいると言った方がいい感覚。
空も地も無く、上も下も無く、右も左も、後ろも前も無い。
湖面に包まれ、太陽に包まれ、私が無くなっていた。

いつしか太陽がかすみ、明るさが静まり、落ち着いた空間になった。

すると、無数の金の雫が落ちはじめた。
金の雫は輪を描く。
小さな輪が、どんどん大きくなって波紋が広がっては消えていく。
波紋と波紋が重なってもぶつかり合わずに広がって行く。
無数の雫は落ち続け、大小様々に波紋を描き続ける。

いつの間にか私と等身大になったプル君が
「お母さん、ここは命の泉だよ。
一滴の雫が作り出すエネルギーを見ているのさ。」

「命のイズミ・・・・・。」

「ウン、ここは何にもないんだ。
だから何でもある世界。お母さんが見たいものを見たんだよ。」

あっけにとられた。

「今、見たいものは命だったんだろう?」

「あっ、そうか。プルの命を考えたから。」

「そう、そうやってお母さんは自分で自分の世界を見ている。
自分の知っているものしか見ないんだよ。
だから、この命の泉もちゃんと記憶があるから見られるんだ。」

プル君の言っていることが良く分からないけれど、そんな気がする。

「ところでプル、ここはどこ?」

プル君は私に寄り添って、頬ずりし、静かに話した。

「この星に、僕のお父さんとお母さんになる魂を見つけたんだ。」

「えっ!
お父さんとお母さん・・・ネコなの?」

「いや、ネコでもありネコでもない。
今のお母さんには分からない生命体だよ。」

「この星に?ここに・・・・・。」

「そうだよ、この星にさ。」

「だってここは何にもないし・・・なんでもあるのかもしれないけれど。
ここで暮らすの?」

プル君は静かにまばたきをして、私を見つめた。

「お母さん、この星に住むと言っても、この星の表面ではないんだ。
この星の内側にはお母さんには信じられない世界がある。
星の表面には彗星がぶつかったり、地震が起きたり、嵐が来たりするだろう?
だから、進んだ文明は星の内側に住むようになるのさ。」

「へっ!この星の中なの!」

「そうだよ。」

「プル!この星に生まれ変わるということ?」

「そうだよ。」

「そしたら、もう会えないの?」

プル君は困った顔をして、
私の頭を大きな舌でペロンと舐めた。
そして又、頬ずりをして「そうだよ・」と言えないプル君
を感じて切なくなった。

「・・・・・お母さん!
この星の中へ行こう。」

プル君は私を包み込むように大きくなって
プル君の両腕に抱かれ、湖面深く入って行った。

プル君の両腕から出ると、そこは眩い光に満ち溢れていた。
眩しくて良く見えないが、小川や小高い山もある。
木々の茂る林や花が咲き乱れている様子が分かった。

よく見ると、光はこの世界を創る全てのものから放たれていた。
眩しくて視界がぼやける。

「お母さん、大丈夫?」

「プル・・・クラクラする・・・。」

「そうか、やっぱり。
ここは調和の世界なんだ。
お母さんは自然でいることを忘れてバランスを崩しているんだよ。」

「そうなの、でも大丈夫。
だんだんハッキリして来たよ。」

プル君はホッとした表情で話を続けた。

「ここはね、人のようなもの、動物や虫や鳥などのようなものが居るよ。
全てバランスをとって生きているんだ。
一つ一つの存在が全体としてあるんだよ。

人も木も動物も思い思いに自然に行動して、縛られることなく自由なんだ。
自由だけれど、役割を感じて、それをする楽しさや喜びが味わえる。

植物たちは人や動物に豊かな果実を実らせ、与えることが喜びとなっている。

そして、人や動物はただ遊んでいるんだ。」

「えっ、ただ遊ぶ?」

「そうだよ、遊ぶということが分かるかい?」

「遊ぶって?あれっ、良く分からなくなっちゃった。」

「そうだろう
遊ぶことの意味も分からないで、遊ぶと言っているよね。

自然をそのまま受け入れてごらん。
自分を思いっきり表現してごらん。
そうすると楽しくて、嬉しくて、ライオンやゾウの手を取って踊りたくなるよ。

そういう喜びや楽しみのパワーを感じることで、そのパワーとエネルギーを世界に戻して循環させてあげる。

それが一番のやりたいことでもあり喜びじゃないかな。」

「そうか、そういうことなんだ。」

すると、プル君の耳だけが後ろにピーンと向いた。

「あっ、僕のお父さんとお母さんだ!」

「えっ、どこどこ~!」

向こうの草むらから
白く輝く巻き毛に覆われたネコ??
じゃないなぁ・・・耳が小さく、スマートな身体。
眼は薄緑で金色に輝いていた。
美しい!

プル君のお父さんとお母さんはニッコリ笑って
目の前を通り過ぎていった。

「あれっ、プル、行っちゃったよ。」

「まだお父さんとお母さんは、ボクが子供になることを知らないんだ。
ボクが家族になると決めただけだからね。」

「へ~、いつ知るの?」

「そりゃ、生まれてからさ。
お父さんとお母さんをボクが選んで生まれるんだから。」

「そうなんだね。
プル、いいお父さんといいお母さんを見つけて良かったね。」

「ウン、ここは調和の世界だ。
ボクはここで遊んで暮らすよ。」

「そうか・・・、そうなんだね。
良かった、見せてもらえて。
プルに会えなくても、ここに居ると分かったら悲しくないもの。」

そう言いながら涙が止まらなかった。

プル君は又私に寄り添って
私を舌でぺろぺろ舐めまわした。

「プーちゃん、わかった。

もういいから~

そのザラザラ舌が痛いのよ~

もういいよ~。」

と、言っている内にベッドで目覚めた。

その日を境に、プル君は私の布団に来ることは無くなった。

時々、星のまたたきを見ると、その瞬きの一つに
プル君が連れていってくれた、あの湖面の輝きを持った星が見えた。

プル君が見せてくれた、私にしか見えない星だ。
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